サワーポメロ

読むな

2013/04/19

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 今日はゼミの先輩方を含めた飲み会があることを先週のゼミガイダンスにて知らされていたので帰る際の利便性を考慮して電車で大学に行くことにした。そういえば高井戸に越してきてから電車通学をするのは初めてだ。部活の追いコンのときと同じ、僕が今出来得る限りのナイスファッションをしていつものようにナビタイムのアプリで高井戸から中野坂上までの乗り換えを明示してもらい京王井の頭線に乗った。先月学外展の受付担当で渋谷まで行った際にはサラリーマンで混み合っており、薄黒いスーツの中にただでさえ派手な水色と白と紫のナイロンジャケットを着た僕が一際異彩を放っているのはトンネル通過時に車窓に反射される自身の姿を見るまでもなかったが、午前9時20分からの始業に合わせて8時40分頃乗った車内には大学生のほうが多く、ほう、この時間にはやはり大学生が多いんだななどと考えていたがどうやら電車が遅れているようで新宿駅で東京メトロ丸ノ内線に乗り換えする際に生じた巨大迷宮新宿駅ならではの長距離歩行によるタイムロスで一本電車を逃してしまったときには既に9時を回っており電車になんか乗らなきゃよかったという後悔の念が人混みの気持ち悪さとともに押し寄せていた。井の頭線の車内で知的障害者の甲高い唸りを聞かされて心の底で大爆笑した頃とは打って変わって体調が芳しくない。

 9時20分、始業時間に中野坂上に着き、家を出る頃から便意に苛まれていたが如何せんそれを排泄する時間が無かったのだがこの時間では学校に着いてからも解消する猶予は無いなと自らの大腸その他臓器にもう少し頑張れと静かに励ましつつ早足で校舎へと向かった。普段は自転車で走り抜けるため気付かなかったが駅から学校まではそこそこの距離がある。既に遅刻しているが先週教授がゼミ室に遅れて入室してきたのを考慮するとおそらく今日もそうだろうという謎の確信を持っていたので学校までの道程を全力疾走して息を切らしながらゼミ室に入る気は毛頭無かった。しかし既に教授が来ている可能性も十分有り得るため、面倒臭えなと舌打ちをして数秒ほど早足の速度をやや上げて向かった。

 高校とは比べ物にならないくらい綺麗なトイレを通過し、学生証を施錠システムの四角い機械に触れさせて解錠するとゼミ室には既に僕以外のメンバーは全員着席していた。予想通り教授がいなかったことが幸いだった。僕は少し申し訳なさそうにおざまっすと言って瞬時に見つけた空席に座った。9時27分だった。

 今週のゼミは今後の展望を各自プレゼンする回だ。人前で喋ることに慣れていないし不得意なうえ昨晩ふと思い出して2時間ほどで書き上げたパワーポイントの簡素さに幾許の不安と緊張を感じて心拍数が上がり、完全に気分を悪くしていた。

 なんとかプレゼンを終えたが他のメンバーの発表を聞いて一人ずつ感想、意見、質問、提案等の発言をしなくてはならないため緊張感は全員の発表が終わるまで収まることはなかった。12時、ようやく緊張感から解放されて同時に大腸の抑圧も解放してやることができた。だが長時間あらゆる緊張感に押し付けられていたため気分の悪さは解消できなかった。外に出て路地を通り、排水口に痰を吐き散らしながら駅前の三井住友銀行に行って五千円を下ろした。無理矢理に鼻詰まりを解きほぐしたので気分の悪さはやや和らいだが午後になっても満腹感と僕の性質から来るゲップ紛いの空気の上昇と猫のように喉が鳴る生理現象は止まらなかった。

 ゼミを終えゼミ室で少しばかり話をし、17時頃に大学のロビーにて待ち合わせていると4年生がやってきてペコペコと挨拶をした。教授は準備をしてきますと言い残してどこかへ消えたまま来ず、結局飲み会が始まって30分ほどして到着した。ゼミのメンバーとはまだフワフワとした状態だったのだが酒を飲むと不思議なもので自然と話せるようになった。僕が苦手なチャラチャラして毛先を遊ばせているタイプの男はいなかったので本当に運があったというか、仲良くできそうで本当に良かった。他のゼミに行った友人も今日飲み会があったそうだが、彼は見たい映画があるからと言って休んだらしい。映画が終わってから行けるっちゃ行けるけど多分疲れて行かないだろうなぁと漏らしていたがTwitterで映画の感想を連投しているところから察するに行かなかったのだろう。彼はそういう催しが苦手らしく僕だってほぼ初対面の人たちと飲むのは苦手だがそういうのは人間関係の構築には欠かせないことだ、酒は必要悪だなどと説くのは、ためしてガッテンで得た酒の欠点ばかりを過信して断酒していると話された時点でやめておいた。

 はじめは生ビールを胃に注ぎ込み、次に梅酒ソーダ割、ピーチサワー、カルピスサワーと4杯、それと烏龍茶を飲み、メンバーの男たちと壁に貼ってあるバイト募集の広告の女性たちをせーので指さして好きなタイプが全員一致してウォ~イみたいなのとか誰が酒が強い、誰が弱い、などといった会話をした。酒を飲むのはやはり楽しい。飲み会は苦手だと漏らしていた他の男も楽しそうに教授と話していた。ところで今日だけでいろいろな人に写真部に入っていた旨を伝えたが、飲みの席で先輩に写真部に入っていましたと伝えたら写真部あったんだ~と驚かれた。うちの大学はもともと写真の専門学校だったためか写真部が3種類あるのだがそれどころか写真部が存在することも知られていないとはこちらも驚いた。

 やがて終宴となり、店から出たところで教授は何やら大量の荷物を装甲車のような無骨なママチャリに乗って帰っていった。そこで先輩も想定外だと嘆いていたのだが、教授のビジネスパートナー兼ご主人がなぜか残り、自ら先導して二次会会場を探しに駅前へと我々を連れ始めた。先輩方も一度しか会ったことがないらしく、皆ぞろぞろと後をついて行ったが駅前で三年は皆帰ることになった。僕も二次会には行きたかったのだが皆帰るというので従って帰ることにした。17時頃から飲み始めたのでその時点でまだ20時だった。早い気もしたが楽しかったので良かった。帰りの電車で課題がいっぱいだ、だとか時間が無いだとか愚痴を言い合いつつ、女子と新宿駅で降りた。普段なら絶対に話せないがどこに住んでるのなどといった情報を交わしつつ乗り換え地点で別れた。せっかく新宿まで来たので改札を出て駅前にある広大な喫煙スペースで胸ポケットから残り2本になったLARKの箱から一本取り出して火を付けた。ここで吸うのは初めてだ。ちなみに昼にも大学の喫煙室で一本吸った。もう21歳になったから、というわけではないが人前でもそこそこ躊躇せず吸えるようになった。喫煙者である教授や先輩から聞かれ今年の三年生は煙草を吸わないとなっているが実は僕は吸う。恥ずかしいので隠しているのだがこれを打ち明けるタイミングがあったら教えてほしい。

 再び駅舎に戻り、頭上の案内板に従って京王線ののりばに行き、満員状態の電車に嫌々乗り込んだのだが満員とタイミングを逃したゆえに降りることが出来ず明大前を大きく過ぎて調布まで来てしまった。調布で逆行きの新宿行き急行に乗り、空いていたため苦役列車の続きを読み始め、井の頭線の各駅停車では頭を寄せて撫で合っている公序良俗違反の気色悪いカップルを一瞥してから西村賢太が書くちょっと難しい語が満載の文面に目を落とした。隣の席ではサラリーマンが退屈そうにスマートフォンの画面をこすって写真を上下させていた。

 飲み会の時間がかなり早かったので、いつもアルコールを摂取するとなぜか食欲が減衰する僕にしては食べたほうだったのだが完全に腹が減った。帰宅時にまだ寮で飯が食える時間だったので食えばよかったか。

 ここの寮にはやたら貼り紙がしてあり、引越1週間ぐらいでそれがやたら目につくのでうるさいな、と思うようになるのだが先日からトイレの床の汚れが目立ちます、苦情も出ているので清潔にしてくださいといった旨の貼り紙が階段、入り口、脱衣場等ありとあらゆる場所に貼られており、エレベーターに乗ったときにも壁に貼ってありここにもあるのかと甚だ厭な気分になったのだが、それは僕だけでなく他の住人も同じなようで、この間乗ったら貼り紙がクシャッとされていた。この寮にも反旗を翻すかのようなアウトサイダーがいるのかと心なしか興奮していたのだが、先程エレベーターに乗ったら貼り紙はさらに丸められた挙句床に転がっていた。この貼り紙の多さにはほとほと苛ついていたので誰だか知らないがこの行動に称賛を与えたい。

 明日は天気が悪いうえ3月上旬の寒さ、盛岡では氷点下を観測するらしいがゲオのDVDの返却日のため出かけなければならない。

 

そんな4月19日。