サワーポメロ

読むな

2013/06/10

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自転車の鍵を失くした。

どこをひっくり返して探しても見つからず、諦めて自転車屋で破壊してもらうことにした。携帯のGPS機能をONにし、付近の自転車屋を調べた。駅に行く方面に一軒あったのを知っていたのでまずそこに行った。後輪を浮かして運ぶのが面倒なので引きずって運んだ。本来軽やかに乗るはずの自転車を押して歩いていると当然ながら不審がられて周囲の視線を大いに浴びることになる。

遠目から見て嫌な予感がした。軒先に自転車が出ていない。先週パンクしたときも三軒回って軒並みぶっ潰れていたトラウマがあるので自転車屋の閉店には敏感だ。

予感は的中した。

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しかも臨時休業だ。こんなにも不運なことはあるのだろうか。

この時点で完全にキレていた。俺が鍵を紛失したことが諸悪の根源なので実に矛先の向けようがない怒りだ。

携帯で二番目に近い自転車屋を調べた。少し遠い。少し遠いがここでチャリを放置して電車で学校に行くと電車賃で余計に金が嵩むので今日直すしかない。

ぜんぶ放棄して学校に行かないという選択肢もあったのだが今日は先週レンタルしたカメラと三脚を返さなければならなかったので行くしかなかった。それによってカゴはカメラバッグが占拠し、背中にはリュック、肩には三脚があり、特に三脚がめちゃくちゃに重くて怒りを沸かせる原因の一つになるのであった。

二番目に近い自転車屋を目指す途中で後輪が爆裂した。ずっと引きずっていたので摩耗してパンクした。ゴムは滑走には強いが摩耗には弱いのか。後輪がパンクした時点で怒りはMAXに達し、汗を垂らしながら怒りを爆裂させた。

二番目に近い自転車屋は「サイクル」と名のつく店名にも関わらず、その中身は完全にバイクショップだった。自転車の修理をやっているかと聞こうと思ったがやっているわけがないし、ファンキーな店主が出てきて「やってない」と想定内の答えを出されてもただただ怒りが増幅するだけなので次に近い自転車屋を調べた。また少し遠くなった。

これ以上俺を怒らせるな、頼む営業していてくれという切実な想いを抱きつつチャリを持ち運んだ。パンクしてズタズタになった後輪は引きずるのが困難になってしまったため持ち運ぶことにした。重くてむかついた。死ねと思った。

三番目の自転車屋がある道は商店が並んでいるがほぼシャッターが閉まっていて死んだ商店街のようだった。自転車屋もやってねえんじゃねえかという懸念が募る。

ファミリーマートに着いたのだが地図上でファミマの少し手前にあるはずだ。通り過ぎたという事実が発覚した途端、超弩級の絶望に襲われた。営業していたら通り過ぎる訳がない。

地図を頼りに自転車屋のあるらしい位置まで戻った。

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自転車屋と地図上に赤い印が表示されている場所には完全なる民家があった。

嘘だろ、と思った。死ねを通り越した瞬間だ。死ねを通り越すと信じられなくなる。

この汚らしい民家が自転車屋なのか?そんな訳はないだろう。

周囲を見渡したがやはりここがそうらしい。店名と表札の薄れた名前が一致している。

隣にはシャッターが閉まっている空間があったのだが、よく見ると「認定技術者の店」とかなんとかが書かれたサインがぶら下がっていた。ところがシャッターが閉まっていて「BTK」だかなんだか忘れたがマジックペンで落書きがされていた。意味がわからない。バイク川崎バイクかお前は。

怒りを通り越して完全に落ち込んでしまったので、近くに自転車を止めてファミマに入ってプレイボーイを立ち読みしてパンを買って食った。ファミマに行くとき汚い民家を見たらおばさんが庭から家の中に入っていくのを目撃した。

このとき10時56分、もしかしたら11時を過ぎており、授業はもう始まっている。もうどうでもいい。

念のため自転車屋に電話をかけた。しばらくコールが鳴ったのち留守番電話サービスのババアの声がした。なんだ。

もう一度かけた。留守電。

3回目。留守電。

俺はさっきババアが家に入っていくのを見たんだ。居留守など使いやがって糞ババアが。死ぬほど死ねと思った。留守番電話のアナウンスが鳴っているときは電話が通じているはずなので「おいババア」と言おうかと思った。せめて営業するのかしないのかを示してくれ。死んでくれ。

もう3軒目だ。もう嫌だ。

次に近い自転車屋はまた少し遠い。ほぼ荻窪だ。

もう行ってやってない、というパターンが嫌なので電話して聞いてみた。営業しているとのことだった。仕方がないが向かうしかない。

行った。やってた。チューブごと交換でめちゃくちゃ金がかかると言われたがもう完全に疲弊しきっていたのでもういくらでもいいから直してくれと思ったのでお願いした。

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そこの自転車屋にはかわいくて人懐っこいダックスフントがいた。待っている間にその犬を撫でていたら気持ちが和らいだ。アニマルセラピーって本当なんだなと思った。

先日のパンク修理代も含めるとかなり金がかかっていて、さらに後輪のスポークが8本も折れていることを知らされた(道理で後輪がグラグラしてるなと思っていた)のでこれを直すとなるとまるまる新しいチャリを買ったほうが安上がりなんじゃねえか、ボディ以外ぜんぶ交換しているんじゃねえかと思ったがこれ以上は考えないことにした。

自転車の鍵はもう失くしたくない。土曜の午前中まで乗っていたのでひょんなことでポロリと鍵が出てくるのが恐くて恐くて仕方がない。もうこの際金輪際出てこないで欲しい。